村上春樹の新刊発売を機に紀伊國屋書店が仕掛けた出版流通の変革は、書店が取次の機能を取り込んでしまうというものだった。
初版のうち、9万部を買い取ってしまうけれど、自分のところで独り占めしないで、
「欲しい本屋さんがあったら、わけてあげます、買い取りでよければ」
ということをやったわけだ。そこまで踏み切ったのには、ワケがある。
小書店などは紀伊國屋の取り組みを歓迎
書店の減少は地方がひどく、小書店はもちろん、中規模の書店(地元の人からすると、けっこう大きなところもふくまれる)が次々につぶれていってる。その一因に、取次による差別がある。
取次の存在は、全国一斉発売を可能にするなどの利点もあるのだが、配本の権限を乱用が問題になっている。小書店が希望してきた冊数を配本せず、販売力のある書店に優先的にまわすということをやってきた。
1冊の売れた場合のそれぞれの取り分はだいたい以下のようになっている。
出版社 約70%
取次 約10%
書店 約20%
これを今回、紀伊國屋書店経由で買うことにすると、販売店の取り分は数%上乗せされる。しかも、欲しい冊数が手に入るだから、小書店の店主などは歓迎している。この動きが今後加速するのかどうか。
危機感のない怠慢が自らの首をしめる
紀伊國屋書店の今回の取り組みは、ネット書店への対抗をタテマエとしながら、じつは「取次はずし」のねらいがあると見られている。取次は気に入らないかもしれないが、自らの怠慢がまねいたことだ。「買い取りでよけりゃ……」というのは、取次自身がやったってよかった話なんだから。
ネット書店の存在感が増せば、取次の立場が危うくなるということをホントの意味ではわかってなかったんじゃないか。
危機感をもった方がいいのは、出版社も同様だ。本が売れない、広告収入が減少している……とアップアップだが、それでもまだ牧歌的な悩みの範囲だ。大手出版社などは、いまだに「一流大学」の大学生の就職先として人気があり、プライドが完全にへし折られていない気がする。
世の中の趨勢は、メーカーより力をもつ販売店の方へ移っている。ネット書店や大手書店に屈服する日も近いんじゃないか。
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