映画『君の名は。』『シン・ゴジラ』の大ヒットにより、東宝は2017年2月期の純利益が赤字予想から一転、前期比28%増の 330億円で5期連続の最高益更新となりそうだと発表した。太古常務による記者会見(10月17日)で語られた2作品のプロモーション方法のちがいに、いまどきのビジネスのネット活用法のヒントがあるので、解説しよう。
『君の名は。』がSNSでの拡散に成功したわけ
会見前日時点の興行収入は『シン・ゴジラ』が77億円、『君の名は。』が154億円だ。
「『シン・ゴジラ』は試写会を開かずに、(ファンの)飢餓感をあおった。一方、『君の名は。』は試写会をたくさん開いて、SNSで評判が拡散した。SNSの口コミで客を呼び込むという点では、現時点で理想的なヒットのあり方だ。SNSの威力が発揮された」
(引用元:2016/10/18付日本経済新聞 朝刊 | 業績ニュース)
また、両監督の才能に早くから着目して、「賭けた」とも言っている。だが、「なぜ」プロモーション方法がちがうのかという点が日経の記事ではわからない。
ポイントは、『シン・ゴジラ』がゴジラというキラー・コンテンツで、監督がエヴァンゲリオンの庵野秀明なのに対し、『君の名は。』の新海誠監督が知名度では劣ることだ。
『シン・ゴジラ』が試写会をしなかったわけ
商品として、ある程度売り上げの見込みが立ち、期待値も高い『シン・ゴジラ』は情報を伏せて初動に賭けた。一方、未知数の『君の名は。』は口コミでの広がりをねらった。ネット時代になって、「入口は無料、途中から課金」というビジネス・モデルが一般化したが、じつは古くからある手法なのである。それが映画で言えば、試写会なのだ。
試写会っていったら、途中までじゃなく、全部無料じゃないの、と思うかもしれない。しかし、映画は体験型の娯楽である。ニュースになるぐらいのヒット作は、劇場のリピーターが訪れる。劇場にはこなくても、DVDやグッズを買うとかね。1回タダで見せたって、それはそもそも宣伝費のうち。大事なのは、作品にふさわしい戦略をねることだ。