ノートル=ダム・ド・パリはキャラ小説の元祖


NHK『100分de名著』がユゴー作『ノートル=ダム・ド・パリ』を取り上げ、キャラ小説の元祖として紹介した。読書家だけでなく、作家志望も要チェックの内容となっている。

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ノートル=ダム・ド・パリのあらすじ

 『ノートルダムの鐘』 ⇒ 詳細はこちら
 
 
『ノートル=ダム・ド・パリ』(または『ノートルダム・ド・パリ』)はフランスを代表する作家のひとりヴィクトル・ユゴーによって書かれた19世紀の小説(出版は1831年)。

『ノートルダムのせむし男』のタイトルで何度も映画化されており、近年のディズニー・アニメの邦題は「せむし」という蔑称をさけて、『ノートルダムの鐘』となっている。

「ノートル=ダム・ド・パリ」とは建物(大聖堂)の名称である。そこに捨てられた醜い赤ん坊カジモドが成長して「せむし男」となり、助祭司フロロの手先となっている。

作中の時は1482年。パリにやってきたジプシーの踊り子エスメラルダの美しさに心奪われたフロロがカジモドに誘拐を命じる。それを助けたフェビュスにエスメラルダは恋する。

ノートル=ダム・ド・パリがキャラ小説と言われる理由

ちょっとユニークなのは、通常であれば、ヒーローであるはずの衛兵フェビュスが不実な男で、婚約者がいるにもかかわらず、16才のエスメラルダと関係をもつ。

 『ユゴー「ノートル=ダム・ド・パリ」 2018年2月 (100分 de 名著) 』⇒ 詳細はこちら
 
 
『100分de名著』で解説にあたったフランス文学者の鹿島茂は、『ノートル=ダム・ド・パリ』の人物造形がプラスとマイナスを組み合わせた現代のキャラ小説に通じるとした。

番組内で紹介した表では、「美貌」「性格」「地位身分」「知性」「身体能力」「愛情(嫉妬)」の6項目を挙げ、主要人物のそれぞれの要素を「+」「-」に分類した。

たとえば、美貌に関して言えば、エスメラルダは「++」であり、カジモドは「--」である。カジモドは身分や知性も「--」や「-」だが、身体能力や愛情は「++」だ。




ジャンケン構造をもつキャラクターたちが織りなすドラマ

 『ノートルダム・ド・パリ』⇒ 詳細はこちら
 
 
さらに、これらがジャンケン構造となっていて、カジモドはエスメラルダより強いがフェビュスには負ける……といった相関図ができているので、いくらでも話が作れる。

こうしたキャラクター造形は、現代のマンガやアニメとまったくおなじであり、その点において、ラノベやキャラ小説と変わらない書き方がされている。

もっとも、現代小説とは異なる部分もあるので、予備知識なしに接すると「読めない」小説だともいう。なにせ、いきなり祭りのシーンが100ページ。現代なら、カットだ。

これは作者ユゴーの憑依体質によるものらしいが、そうした欠点をもちながらも、くり返しリメイクされるのは、なぜか。ひとつは先に述べたキャラクター造形の強烈さ。

無実の罪で処刑される美しいヒロインの行く末は

もうひとつは、ユゴーの内面にもあったさまざまなカットウ、物事の両面をドラマとして構築したところだ。そこから、さまざまな読みが引き出せるようになっている。

そのドラマの核としてユゴーが用いたのが人間の行動に強い影響をあたえる嫉妬だ。

エスメラルダの逢瀬をのぞき見したフロロは相手のフェビュスを刺して逃げる。気絶したエスメラルダはフェビュスを刺した犯人として捕らえられるのである。
 
 

 ノートル=ダム・ド・パリ(上) ⇒ 詳細はこちら

 ノートル=ダム・ド・パリ(下) ⇒ 詳細はこちら
 
 
 
●ヴィクトル・ユゴー(1802~85)
 フランス・ロマン主義の作家。
 代表作『レ・ミゼラブル』
 
 
●参考:NHK『100分de名著』