【本の売れ筋】『火花』と『文學界』増刷に潜む危機感


 ピースというコンビを組んでいる芸人・又吉直樹の出した単行本『火花』が数十万部も売れている。小説では、ひさびさの大ヒットで、掲載誌の『文學界』も4万部を記録し、初の増刷がおこなわれた。又吉の小説は業界人の評価もいいらしく、三島賞、芥川賞と立てつづけに候補となった。めでたい話のように見えるかもしれないが、出版界のことを考えると、手放しには喜べない。関係者が自覚しているといいのだが。

芸人ブランディングの成功

 まず、小説が売れた原因を簡単にまとめておくと、芸人の書いた小説だからだ。かつてビートたけしが小説を出したときには、芸人の頂点にいたわけだが、ピースの場合、芸人としては大人気とまではいかない。事務所の力もあって、中堅どころとしてはTVでの露出が多く、成功している部類である。バラ売りが目立つのに、2人とも地位を得ているというのは珍しい例だ。又吉の芸人としての立ち位置が独特だからだ。

 それはなにかというと、フリートークでは「芥川」「太宰」など古い文学青年みたいな作家の名前を出し、彼らを愛好しているとをくり返す少し暗い芸風。筒井康隆が共演すれば、ふだん自著の宣伝をしてくれていることに感謝するといった具合だ。まるでツイッターみたいなやりとりをTVでやっている。そういう人間が自ら小説を書いたとなったら、ちょっと読んでみたくなるのが人情だろう。つまり、初動は「視聴者」が作ったものだ。

売れているものをSNSは好む

 SNSが強い力をもつ現在、初動の強い作品がますます売上げを伸ばす仕組みができている。「話題」を拡散したい人が大勢いるからだ。「芸人の作品」という色眼鏡で読み、思ったより小説っぽかったら、「期待以上」として広まる。作品を評価するときに「芸人が書いたものだから」と差別するのは愚かなことだろう。しかし、この売れ行きは「芸人だから」だ。それは出版界が生み出した価値ではないのだから、浮かれてちゃダメだ。

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