『修造アンサー!! こまったきみの、なやみ解決』(学研プラス)は2016年末に出て、2017年2月には増刷のかかったヒット作。著者は元男子プロテニス選手の松岡修造だ。
表向きは小学生(中~高学年)向け出版なのだが、大人が読んでもなかなかおもしろい。さらにAmazonのKindle本(電子書籍)などの出版を考えている人には企画の参考になる。
修造カレンダーへの便乗
松岡修造と言えば、「熱い」キャラが定着している。肩書きはスポーツキャスターとなっているものの、必要とされているのは、応援団的な言動だ。
そうしたキャラを活かし、すでに「修造カレンダー」や「修造かるた」がヒット商品となっている。そういう意味では、『修造アンサー!!』も便乗商品のひとつだ。
しかし、本づくりがていねいで、たんなる流行りモノで片づけるにはもったいない、企画発想のヒントが隠されている。言い換えると編集面にアイデアがあるのだ。
まず基本情報を話しておくと、『修造アンサー!!』は小学生の悩みに松岡修造が答えるという作りになっている。直接、大人に向けて書かれているのは、あとがきの部分だけだ。
松岡修造の熱いキャラと悩み相談は好相性
ちょっと発見だったのは、本というオールド・メディアの利点だ。松岡修造の熱いキャラは正直苦手な人もいる。しかし、本だと暑苦しさは出てこない。
それでいて、Q(悩み)のページをめくると出てくるA(答え)のページには、そのつど表情やポーズを変えた松岡修造の写真があり、「読む」というより「話を聞く」感じだ。
ケガで練習できないサッカー少年が「みんなに置いていかれたみたい」と悩んでいれば、
「全力で休め!」
と言う。子供なら、ここだけ見てもいい。
そのとなりには、もう少し答えを補足した文章があるのだが、最後にもうひとこと修造メッセージがつく。これがいい。
「きみの復活を、信じてる!」
松岡修造人気を支えるニーズ
ふだんの熱い言動からバカっぽく見られがちな松岡修造はテニスの解説になると、意外に(と言っては失礼だが)まともなことを言う(バレーボールの川合俊一も同タイプ)。
トップ・アスリートになると、最後はメンタルの問題で、試合直前に四の五のテクニカルなことを言ってもしかたがない。だから、アニマル浜口は「気合いだ!」しか言わない。
悩める小学生も、あるいはもっと上の思春期や大人でも、最後は不安を吹き飛ばすひとことが欲しい。だいじょうぶだ、とか、見守っているよ、とか、たわいもない言葉でいい。
でも、日常でそうした言葉をかけてくれる人は少ない。松岡修造人気を支えるのはそこのニーズだ。この本はそのよさをうまく引き出すような編集がなされている。
松岡修造によるウンチクとゴシップ
さらにページをめくれば、解決策が示されている(ケガで練習できないなら、休んでいる間どうすごせばいいか)。言いっ放しではなく、代替案としてのハウトゥが示される。
テニス・プレイヤーとしての松岡修造はケガで苦しんだから、意外に説得力もある。錦織圭選手の活躍という最新トピックを扱ったコラムもウンチクとゴシップ両方が入ってる。
ウンチクとしては、錦織圭のファイナルセットの勝率が歴代1位であることとその理由。ゴシップとしては、圭が11才のときから3年指導したが、よく泣いていたことなど。
本の内容的には、いくつかツッコミどころはあるのだが、企画の勝利だ。松岡修造と子供の悩み相談と相性がいいと見抜き、企画に合った編集をしたことが成功につながった。
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