伝わる文章の書き方:北朝鮮ってどんな国?


池上彰が高校生相手におこなった授業をまとめた『世界の見方』というシリーズ本がある。いま世界で起きていることを理解するのに、大人でも勉強になる内容がつまっている。

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言い換えれば、わかりやすく有益な情報が書かれているわけで、「文章の書き方」としてのお手本にもなる。ここでは、その文章術に注目して、「朝鮮半島」編を紹介していく。

取り上げる題材の背景を説明する

「北朝鮮」と聞いて、どんなイメージをもつだろうか。なんだかよくわからないけど、独裁者がいる恐ろしい国、拉致問題、核開発、ニュース映像のおばさん……などなど。

しかし、どうして、そういうことになっているかを知るには、そもそも、北朝鮮という国がどのようにしてできたか、歴史を学ぶ必要があるというのが池上彰のスタンスである。

そこで、朝鮮半島に2つの国ができたのは、日本が戦争に負けたからだというところからはじめて、ソ連(現・ロシア)の都合でできた北朝鮮という国の歴史をひもといていく。

北朝鮮建国の父とされる金日成は本名ではない。1912年生まれの金成桂という男だ。指導者となるため、抗日戦線で活躍した伝説の将軍「キムイルソン」の名を借りたのだ。

資料のツッコミどころをさがせ

この基本情報に、池上彰はつけ加えている。

「金日成の公式伝記にあるエピソードをひとつ。1919年3月1日に朝鮮半島では抗日独立運動(三・一運動)が起こります。その時、金日成は運動の先頭に立って朝鮮の人たちを指導したといわれています。どこかおかしいと思いませんか?」

このとき、金日成は7才なのだ!

じっさいには、日本軍に追われて、ソ連に逃げ込んでいた金日成は人々の上に立つため、ほんとうに日本軍と戦っていた勇士たちを次々と粛清。歴史を偽造していく。

その過程は、安っぽいアニメかなにかのようで、池上彰はツッコミどころを指摘していくが、その結果、世襲制の独裁国家ができあがってしまう。

話題の選び方でテーマが伝わる

さらには、金日成への個人崇拝がおこなわれ、万能の指導者として、なんにでも口を出す。金日成の「山の木を切れ」というひとことで、北朝鮮は食糧難に陥ってしまう。

詳細は直接本文にあたってもらいたいが、この「独裁」というものの恐ろしさということが池上彰が伝えたかったテーマのひとつであろうことが、その口ぶりからうかがえる。

ただ、池上彰は安直に世情と結びつけて、自らの政治的信条を述べることはなく、ここから先は個々人の考えにゆだねている。かわりに、北朝鮮の現状を伝えている。

ここで、池上彰は元NHKのキャスターで、現在もニュース解説者として活躍している自分の立場を武器とする。すなわち、かつて取材したときの北朝鮮の現実を語るのだ。

まるで冗談のような北朝鮮での暮らし

「北朝鮮の人の日常生活を見せたいと思い、奥さんがキッチンで炊事で炊事している姿を撮影したい、とお願いしました。/その時同行していたテレビ局のディレクターが『水道の水は出るんですか』と聞いたのです。なんて失礼な質問をするんだろうと、私もドキッとしました。/奥さんも、当然、ムッとした顔で答えました。『水道はちゃんと出ますよ! 一日2回』」

そこでは20階以上に住んでいる人たちがみな階段を使っている。

「1階まで降りて周りの高層アパートの入り口を見ると、どのアパートにも人のよさそうなおばさんがひとりずつ立っています。見知らぬ人が訪ねてきたら、監視して、何か怪しいんじゃないかと思えば、すぐに当局に通報できるようにしているんです」

観察力を駆使して現実を伝える

「人のよさそうな」というところが恐ろしい。このように、巧みに現実を吸い取って、ニュースの裏側にあるものを伝える技術は、その観察力に立脚していることがよくわかる。

池上彰の人気の源は、人としての芯はしっかりしてるのに、発言がニュートラルなところにある。安っぽい意見をふりかざさず、事実によって伝えるという姿勢の賜物だろう。

【参考文献】

 池上彰の世界の見方 朝鮮半島: 日本はどう付き合うべきか ⇒ 詳細はこちら
 
 
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