会社を辞めたいけど、すぐには辞められない事情がある場合、対処法は2つある。
(A)辞める準備をしつつ時期を待つ
(B)辞めなくていいよう待遇を改善させる
いずれにしても、雇用者側(会社の経営者・直属の上司)の落ち度を責めることができれば、有利に交渉を進めることができる。パワハラがあったとなったら、従業員が有利だ。
パワハラ防止は法律で義務づけられている
パワーハラスメント(パワハラ)を防止する措置を企業に義務づける関連法が成立した。大企業は2020年4月から防止措置を講じることが義務づけられる。
大企業だけか、と思ったかもしれないが、そのルールを把握していれば、中小企業の従業員であっても、パワハラを受けたときに、それを堂々と主張することができる。
ただし、パワハラがあった事実を雇用者側や第三者に認めさせるのは、証拠がいる。辞めるまでに材料をそろえるには、どういう事例がパワハラにあたるか把握しておきたい。
「そんなつもりはなかった」
というのは、卑怯者の言いわけの典型だが、ホントにパワハラをしている側が、その行為がパワハラと認識していないケースも多い。
パワハラ防止法が定めるパワハラの定義
今回制定されたパワハラ防止法では、パワハラを「職場での優越的な関係を背景に、必要な範囲を超えた言動で就業環境を害する行為」と定義している。
どのような言動がパワハラにあたるか、厚生労働省が年内に指針を出し、明示する予定だ。現段階で、厚生労働省はパワハラを6つの類型に分けている。
(1) 暴行・傷害
(2) 脅迫・ひどい暴言など精神的な攻撃
(3) 仲間外し・無視
(4) 業務の過大要求
(5) 業務の過小要求
(6) 私的なことに過度に立ち入る
具体的には、今夏に労働政策審議会で議論をはじめることになっている。ここでは、過去の裁判でパワハラ認定を受けた事例をもとに、パワハラとされる言動を見てみよう。
パワハラ裁判で認定されたパワハラ行動
パワハラの代表的な行為には、いわゆる暴力や罵詈雑言がある。直接手を出さない威嚇行為もダメで、仲間はずれにして、精神的に追いつめるといった仕打ちもアウトとなる。
上のリストにある「ひどい暴言」がどの程度なら、パワハラになるかというと──
「おまえ無能だ」
「とっとと辞めてしまえ」
上司は指導のつもりだったと言いそうな説教だが、パワハラ防止法ではパワハラにあたる。つまり、「辞めてしまえ」と言われたら、逆に辞めなくていいことになる。
過労死事件などで問題になる残業強制は「業務の過大要求」にあたるだろう。時間だけなく内容が無茶ならパワハラだし、逆に仕事をさせない「過小要求」もパワハラとなる。
パワハラ行為は企業に賠償責任を問える
このように、業務の中で「必要な範囲を超えた言動」があった場合、従業員はパワハラを受けたと主張できる。パワハラ防止法が及ぶのはパワハラ行為した人だけではない。
パワハラ行為を放置した企業も賠償責任を問えるようになっている。しっかりとした宝庫を示せば、従業員は法律の保護を受けるだけでなく、会社から賠償してもらえるのだ。
裁判みたいな大事にしたくないという人もあるだろうが、訴えるかどうかはべつにして、第三者の介入をチラつかせるだけでも、企業に対してはかなりの効果がある。
パワハラというのは、一般の人間関係でいうイジメに等しい。つまり、閉鎖された環境であるほど、悪質化しやすい。法律が味方についていると知るだけでも、心強いだろう。
自分がパワハラを受けたらどうすればいい?
会社の業務の中で、「これ、パワハラじゃないかな」と思ったとき、判断の目安がある。キミ自身が肉体的、精神的に苦痛を受け、通院などしていれば、明らかにパワハラだ。
もう少し微妙なケースでは、他の社員の扱いと比較するといい。自分だけが過度に仕事を押しつけられている、無視されている、差別的な待遇を受けているといった類だ。
もちろん、キミが大きなミスをしたとか、サボっているというように明らかに落ち度があると、怒られてもパワハラではない。しかし、怒り方が度を超えていたら、パワハラだ。
「叱る」ときに常軌を逸して怒鳴る、ネチネチとイヤミを言う上司が相手なら、そのようすをICレコーダーやスマホのアプリに録音しておくといいだろう。
パワハラ防止は会社にとってもいいこと
ブラック企業にかぎらず、資本主義の社会では、資本家・経営者は従業員をコキつかい、労働力をしぼりとるといったイメージがあるかもしれない。
しかし、利益を追求する企業にとって、目指すべきは生産性の向上であり、優秀な人材の確保だ。キミがパワハラの存在を指摘することが、会社や他の従業員のプラスにもなる。
パワハラと疑われる行為があったら、問題として挙げてみることも必要だろう。パワハラ防止法はスマホや私物ののぞき見など、プライバシーへの過度に立ち入りを禁じている。
雇用者側に改善しようという態度が見られない、性格的に直接言いにくいといったときには、行政機関に相談しよう。労働基準監督署などに労働問題に関する相談窓口がある。