吉本ばななを人気作家にしたアイドル


 書評を書きたいという人に、知っておいてもらいたい話がある──

ライティング 画像

 作家の吉本ばななはデビューするなり、若い女性たちの心をつかんで、ヒット作を連発した。その人気爆発に一役買ったのが新しいアイドル像を確立した小泉今日子だった。

 このころ、小泉今日子の言動には、常に世間の注目が集まっていた。その彼女が歌番組に出演したさい、いまお気に入りの本ということで、吉本ばななの作品を紹介した。

 小説『キッチン』がいかに自分の感覚に合うかを語ったのだ。小泉今日子を含む若い女性が共感したくなるセンスは、もともと、吉本ばななの小説の中にあったものである。

 しかし、せまい文学の世界で新人賞を獲ったぐらいでは、一部の人間の目にしかとまらない。小泉今日子が「好き」と言ったことで、その状況が変わった。

書評の本質

 人が何かを好きになるのには、きっかけがいる。いくら魅力的な作品であっても、まずはその存在を知られなければ、読んでもらえなければ、好きになってもらうこともない。

 吉本ばななの例では、小泉今日子が「好き」と言うことで、小泉今日子を好きな多くの若い女性がそこに自分の「好き」があることを知った。発言が導火線の役目を負った。

 もちろん、吉本ばななが作り出した小説の質がなければ、どんなに注目されたところでヒットはしない。が、小泉今日子の「好き」がなければ、注目されたかどうか。

 このとき、小泉今日子がはたした役割こそが我々の考える書評(ブックレビュー)の本質で、批評とはちがう部分だ。取り上げる作品に関心をもたせるのが書評の任務である。

興味をいだかせるのが書評のテクニック

 我々のように、依頼を受けて仕事として書評をする場合、「本の紹介者」であるという基本はゆるがない。内容の良し悪しを判定する「本の審判者」とはちがうのである。

 そして、書評をするときは、「紹介者」に徹して「審判者」になるな、というのは、一般の人が書評を書くときにも、心にとめておくべき事柄だ。

 「好き」を表明するのはかまわないが、キミがよほど影響力のある人間でないかぎり、それだけで他人に興味をいだかせるのはむずかしい。そこで書評のテクニックを用いる。

 
【関連記事】
 書評を書きたい人は小泉今日子の書評集を読むべき
 kindle unlimitedの読み放題がお得!覚えておきたい賢い利用法3選