表紙イラストの描き方で覚えておきたい7ルール


この表紙イラストを描いたのは江口寿史。さすがというテクニックがいくつも使われている。せっかくなので、イラストを描くときにお手本にしたいポイントを解説しよう。

小林信彦 唐獅子株式会社 by 江口寿史

表紙というのはパッと目を惹くのが大切で、それはけっきょく、どんなイラストを描くときにも必要なことだ。そのために、意識すべきルールを7つ挙げてみた。
 

(1)インパクトのあるキャラクター

有名な作家の小説や古典作品ならば、表紙が抽象画や風景画でもいいかもしれないが、イラストの力で興味をもたせるには、魅力的なキャラクターは欠かせない。

江口寿史と言えば、かわいい女の子のイラストが人気だが、この小説(小林信彦『唐獅子株式会社』)では、味のある表情のブルドックでインパクトをもたせている。ついでだから、おなじシリーズで女の子を描いた拍子も載せておこう。

小林信彦 極東セレナーデ by 江口寿史

(2)コントラストの強さ

「強い絵」の基本は、コントラストだ。その絵をモノトーン(白黒)にしたときの明度差がものを言う。一見、派手な色づかいでも、明度差が少ないと印象が弱い。

お手本で言うと、パンプスやスニーカーがアクセントになっている。色味も派手だが、明度差を強めている。これがベージュや水色だったら、絵全体の印象が弱まってしまう。

(3)背景との境界線を変化に富む形にする

キャラクターをシルエットにしても、なにが描かれているかわかるように。形の特徴を隠してはいけない。お手本だと、男女の脚の間にブルドックの耳がきている。

○を2つ描くとき、◎みたいに重ねてはいけない。シルエットだと●になって、中の形が死ぬ。たとえば、雪だるまのようにズラすのが正解。もちろん、人物を2人描くときも。

(4)視線の誘導

絵の中で注目させたい部分(主役)に視線を集めるように構図を工夫する。あるいは、形の組み合わせに流れを作って、描き手の思い通りに見る者の視線を誘導する。

お手本の表紙を見た者は、ブルドックに目が行き、そこから脚をたどって視線は上方へ。すると、刺青(いれずみ)が目に入り、さらにはタイトルへとたどりつく。

(5)物語性

イラストは1枚の絵の中でストーリーを感じさせなくてはならない。小説の表紙ともなればなおさらだ。それには、背景の描き込みや小物が大きな役割をもつ。

お手本の絵は「刺青だから、ヤクザ?」「でも、足もとはおしゃれだし」「ブルドックは情けない顔をしてるし」と興味をもたせ、読んだら、内容を反映していたことがわかる。

(6)題字とのバランス

表紙ということで言うと、題字と絵のバランスというのも大切だ。題字で大事なのは、強さをもちつつも絵となじませることだ。絵の側も題字をジャマしない構図を考える。

お手本は題字が独立したタイプで、アメリカのペーパーバック風のデザインに合わせた絵になっている。絵と題字が重なるデザインのときは、フチや影を活用するのも手だ。

(7)イラストレーターとしての個性

絵を描く以上は、自分の個性を刻印したい。けれども、仕事として描く絵はそのまえに役割を忘れてはいけない。表紙ならば、作品世界を伝え、読んでみたいと思わせること。

お手本の場合、江口寿史は解説も書いていて、マンガ家として受けた影響を告白している。小説のもつユーモアとセンスに呼応した仕掛けが帯の下に隠されている。

小林信彦 唐獅子株式会社 by 江口寿史

(8)まとめ

それが表紙イラストであれば、作品のテイストを表現することが第一であって、それを追求した結果、イラストレーターとしての自分らしさも表現できていることが理想である。

それを可能にするのが作品への愛であり、こういう読者に届けたいという想いだ。その愛や想いを伝えるのに技術の裏づけがあるのがプロで、事前の計画性が質を高める。